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「狼と香辛料」

きっかけから話すとしますと、少しばかり長くなります。
事の発端は、松倉ねむさんのBlogでした。コンプエースで東方の漫画を描いておられた方です。
その東方の漫画からは、大変残念な事に降板されてしまいましたが、その理由となった病気の方も順調に回復しておられますようで、一安心といったところです。

話を戻しまして、その松倉ねむさんのBlogに、この作品に対しての感想と、幾枚かの絵が上げられており、それを目にした事が、興味を抱いたきっかけになります。
元来私は、特殊な口調に対し、人並み以上の興味を抱いてしまうタチなようで、この作品に対しても、ご多分に漏れず強い興味を惹かれてしまったのです。
もっと簡潔に言ってしまえば、私は、方言や老獪な喋り方などの特殊な口調に対し、人並み以上に萌えてしまうタチなわけです。
このように、非常にオタクらしい着眼点から手にするに至った本作が、期待に沿うものであったかどうかの結論は最後に書かせていただくとしまして、とりあえずは雑感などをつらつらと。

狼と香辛料

本作、「狼と香辛料」は、電撃小説大賞の第12回において銀賞を受賞した作品であり、オビにコメントを寄せている一人は、かの「涼宮ハルヒの憂鬱」を生み出した、谷川流氏だったりします。
その主人公は、勇者ではなく戦士でもなく、僧侶でも魔法使いでも武闘家でもなく、また遊び人でもありません。
およそ戦いには向いておらず、冒険も似合わない商人こそが、この物語の主人公なのです。
ああ、一人だけいましたね。戦いと冒険の似合う商人が。私が知る限り、主人公を担うような変り種の商人は、かのトルネコ氏を含めて二人だけという事になります。

中世のヨーロッパを思わせる世界を物語の舞台としており、人々の心の中には、魔物や悪魔の類いが、未だ確かな存在感を示し続けています。
その一方で、かつて栄華を極めた教会が、その趨勢に陰りを見せている時代でもあります。
数十年後には大きな転機を迎えるであろう、言わば夜明け待ちの時代。そんな世界が、この物語の舞台となっています。

ストーリーとしましては、主人公の職業を存分に活かす内容のものとなっており、即ち耳と足と弁舌と、そして何より頭脳をもって、巨万の利益を生み出そうとしていくお話です。
とはいえ、そこまで突っ込んだ書き方もされておりませんので、そういった方面に知識の浅い方でも、問題なく楽しむ事ができると思います。かくいう私も、経済や商取引には疎いです。

駆け出しの時期を脱し、中堅の域に足を踏み入れた頃の行商人、クラフト・ロレンス。とあるきっかけから彼は、豊穣をつかさどる狼神、ホロと行動を共にする事となります。
そうこうしているうちに、転がり込んだ儲け話。乗るべきか、はたまた避けるべきか…というのが、物語の出だしとなります。

主人公ロレンスと、ヒロインのホロとの掛け合いを中心に物語は進んでいき、大きな山も谷も迎えないままに、終盤へと入っていきます。
はっきり言ってしまえば、大きな盛り上がりを期待して読むべき作品ではありません。しかし、起承転結はしっかりしていますし、作品に対して期待するべきものを間違いさえしなければ、失望させられるような事はまずないでしょう。
と言いますのも、この作品の最大の魅力は、ロレンスとホロとの掛け合いにあると言っても過言ではないのです。よって、盛り上がり云々は瑣末な事だと言えます。
とはいえ、それは終盤に至るまでの話です。クライマックスへ近付くに従い、展開の速度は段々と上がっていき、それは終盤に至って最高潮へと達します。
それがどれほどのものなのかは、お読みになられた方になら、お分かりいただける事と思います。

筆力と言うのでしょうか、文章を巧みに書く能力に関して、著者である支倉凍砂氏は、特筆して優れているわけではありません。客観的に見て、殊更巧いと思わされるほど、優れた文章を綴る書き手ではないという事です。
実際、物語の中盤頃に至るまでは、割と退屈な展開が続いているため、飽きっぽい人であったなら、そこで投げ出してしまうようなこともあるかもしれません。
ですが、キャラクターに魅力を与える事、それも中盤を過ぎた頃の、物語の展開的に最も重要な場面でそれを成す技術に関しては、お世辞抜きに優れていると言えます。
それをよく表しているのが、ヒロインであるホロの存在です。

10代半ばの少女の容姿と、犬耳(正確には狼耳ですが)に尻尾と、消費され尽くして擦り切れてしまった感すらある記号的な萌えを身にまといながら、老獪な口調に加えて数百年を生きた知識と経験を持つという、明らかにそぐわない要素を一身にそなえたホロ。
それに対し、外見のうえではずっと年上で、かつ商人としての浅くない経験を積んでいるにも関わらず、少女のような見た目のホロに、終始からかわれ、翻弄されてしまうロレンス。
繰り返しになりますが、この二人(一人と一匹?)の絶妙な掛け合いこそが本作品の心臓部であり、またホロの魅力を存分に引き出す要因ともなっています。
つまるところ、この作品を楽しめるかどうかを決定付けるもっとも大きなポイントは、主人公とヒロインの二人に対して萌えられるかどうか、というところだと思います。

ラノベの楽しみ方は人それぞれですが、そのひとつとして、「キャラクターの個性を楽しむ」というものがあると思います。
無論、シナリオの良さも必要ですが、それ以上に、或いはそれを差し置いてでも、キャラクターに魅力を感じる事ができるかどうかということは、作品を楽しむ上で最重要のファクターともなりえると思うのです。
その点で言いますと、本作は明確に成功していると言えるでしょう。ロレンスの、そしてホロの存在そのものが、それを証明しています。

「面白い」という評価は適切でなく、「名作」と呼べるほどに秀逸でもなく、「斬新」と言えるほどの目新しさもない。しかして心の底から「良い」と思える良質なノベル。それが、この作品を飾るにもっとも相応しい言葉だと、私は思います。
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