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「少女七竈と七人の可愛そうな大人」

著者は桜庭一樹さん、表紙イラストはさやかさんです。
厳密にはライトノベルではないと思うのですが、著者氏がラノベ畑の人ですので、カテゴリーもそのようにしています。



ありがちな事情を抱え、ありがちではない非凡な美しさを湛えた少女七竈と、その親友の雪風を中心に綴られる物語です。

読み始めた当初は、新鮮な驚きがありました。
桜庭一樹さんは、こういうものも書けるのか、と。
この文体は、今までの氏の著作には恐らくなく、この作品を書くにあたって初めて試したものと思われます。
文体だけでなく、作品構成もライトノベルにはあまり見られないもので、タイトル通りの7人ではありませんが、実に5者の視点で物語が推移しており、その中には何と「犬」までいます。

当初はそういった驚きが先行していましたが、ずっと読み進めていきますと、この作品が紛れもなく桜庭一樹さんの手によるものという事がわかってきます。この、場の空気を目に見えるものへと変質させたかのような描写は、氏の他の著作でも見る事ができる特徴の1つです。
桜庭一樹さんは、その「空気感」とでも言うべきものの描き方が、とりわけ巧いのです。

ライトノベルにおいては、高確率で登場する非日常の要素がまったくないにもかかわらず、かつ写実的な描写をふんだんに用いておいて、なおこれだけ幻想的な世界観を構築できるというのは、読んでいても不思議に感じます。
文章の事だけに限らず、恐らくは意図して廃したであろう萌えの要素も、よく読めばかすかに感じ取る事ができます。そのさじ加減も絶妙なのです。

物語のジャンルとしては、「人間ドラマ」とかそういった類いのものになると思います。
大変な事件が起こってしまい、それを乗り越える事で主人公やその周囲の人々が成長したりといったような事は、この作品にはありません。彼女達の抱えた事情は、一般的に見ますとごくありふれたもので、その成長も特にドラマティックではなく、言うなれば年相応に一歩を踏み出したに過ぎません。
ですが、だからこそ等身大の物語になっており、より共感しやすくもなっているのです。

この作品を一番楽しめるのは、若年を過ぎて中年に差し掛かったくらいの年代の方々だと思うのですが、実際はどの年齢層が読んでも相応に楽しめるのかもしれません。若い人は若いなりに、若くない人は若くないなりに、です。



100点満点で評しますれば、82点といったところです。
正直に申しまして、この作品のジャンルは特に私の好むものではないのですが、文章がそれを補って余りあるほどに素晴らしいです。考えるだに詮無い事ですが、これでジャンルまでもが好みと合致していたなら、90点を超える事も十分にあり得たと思います。
ジャンルなどにこだわらず、筆致の妙を楽しみたいという方にこそお勧めいたします。
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