「ALL YOU NEED IS KILL」
著者は桜坂洋さんです。他の著作に、「よくわかる現代魔法」シリーズなどがあります。
イラストは安倍吉俊さんです。

「同じ時間を幾度となく繰り返す」という設定から、ひぐらし解の後半を連想しました。
両作品共に、主人公の行き着く先は絶対的なまでの死であり、死は言うまでもなくゲームオーバーです。しかし物語の主人公は、その望むと望まざるとにかかわらず、「コンティニューする」という選択を手に入れます。そのコンティニューを最大限に活用し、死を回避して、未知の明日を迎える事こそが最終目標であるという点まで、非常によく似ています。
ですが、その他の部分ではまるっきりと言っていいほどに異なっています。同じ設定を用い、かたやライトノベル、かたや選択肢のないノベルゲームと、酷似した媒体で綴られてはいますが、内容の方はまるで別物です。
ただひとつ、共通点があるとしますれば、それはこの2つの作品が、互いに勝るとも劣らない名作であるという事です。
機関銃やライフルの攻撃などものともせずに突き進む装甲車と、1対1で真正面から戦って打ち勝つほどの力を、「機動ジャケット」は与えてくれます。
標準装備の20ミリ機銃、3発のロケットランチャ、燃料気化グレネード弾に加え、左肩には戦車の前面装甲以外のあらゆるものを貫く炸薬式パイルドライバが装備されています。
全身を強固な複合装甲板で覆い、内部に張り巡らされた人工筋肉によって、生身の握力が100キロの者でも10キロの者でも、等しく最大370キロもの化け物じみた握力を手に入れる事ができます。
生身の人間を、装甲車と対等以上の戦力にまで押し上げる、人類の切り札的な装備、それが機動ジャケットなのです。
しかし、人類と相対するその敵は、機動ジャケット兵ですら死を覚悟しなければ相対できません。
「ギタイ」と呼ばれるその敵は、地球上の生物とは根本的に異なる構造を持ち、腕の一振りで人の体など紙くずのように切り裂きます。噴出孔から射出するスピア弾は、機動ジャケットの複合装甲板ですら易々と貫いてしまいます。
それでいてジャケット兵を凌駕するスピードを持ち、20ミリ機銃など問題にならないほど堅牢な装甲を持っています。
人類にとってギタイとは、10人の機動ジャケット兵で扇状に取り囲み、全弾撃ち尽くしてようやく1匹仕留められるかどうかという、絶望的にどうしようもない存在なのです。
新米の機動ジャケット兵である主人公は、そんなギタイとの初戦闘において命を落とします。本来ならそこで終わる筈だった彼の人生は、しかし如何なる理屈によるものなのか、そこで「リセット」がかかる事になります。
前日の朝まで巻き戻ってしまった彼の意識は、理由も目的もわからないままに、終わる事なく延々と続くループの渦中にとらわれる事になってしまうのです。
率直に申しまして、名作です。かなり面白いです。
ミリタリーにSFと、燃えを表現するのに適した題材を扱っていますが、その2つを最大限に活用する事で、至上と言えるほど燃えるストーリーを形作る事に成功しています。
設定も細かな箇所に至るまでが秀逸で、構成力も卓越しており、ひとつひとつの描写も緻密です。全体を通して見ましても、穴らしい穴が見付かりません。
1点だけ気になる箇所があるとしますれば、それは終盤の展開にあります。
端的に申しますと、タキオン通信を遮断する物質、または方法が、本当に存在しなかったのかという事です。
本著が名作足り得るには、あの結末に至る他ないと思いますので、存在しなかったというのなら、それはそれでいいのです。ただ、その旨を一言明記しておく事で、展開の説得力が格段に上昇したとも思うのです。
100点満点で評しますと、94点といったところです。燃えを中心に扱った著作としては、円環少女以来の、一ヶ月ぶりの大当たりでした。
戦場の牝犬ことリタ・ヴラタスキさんの萌え度が、私の予想を遥かに超えて高かった事も、評価を上向かせた要因の1つです。
減点の理由は、上記の終盤の展開についてと、登場人物の言葉遣いが若干汚い事です。言葉遣いに関しては好みの範疇ですので、人によってはまったく問題にならないと思います。
ミリタリーが好きな方なら、とりあえず読んでおいて損はないと思います。
燃えるライトノベルを探しているという方にもお勧めいたします。
イラストは安倍吉俊さんです。

「同じ時間を幾度となく繰り返す」という設定から、ひぐらし解の後半を連想しました。
両作品共に、主人公の行き着く先は絶対的なまでの死であり、死は言うまでもなくゲームオーバーです。しかし物語の主人公は、その望むと望まざるとにかかわらず、「コンティニューする」という選択を手に入れます。そのコンティニューを最大限に活用し、死を回避して、未知の明日を迎える事こそが最終目標であるという点まで、非常によく似ています。
ですが、その他の部分ではまるっきりと言っていいほどに異なっています。同じ設定を用い、かたやライトノベル、かたや選択肢のないノベルゲームと、酷似した媒体で綴られてはいますが、内容の方はまるで別物です。
ただひとつ、共通点があるとしますれば、それはこの2つの作品が、互いに勝るとも劣らない名作であるという事です。
機関銃やライフルの攻撃などものともせずに突き進む装甲車と、1対1で真正面から戦って打ち勝つほどの力を、「機動ジャケット」は与えてくれます。
標準装備の20ミリ機銃、3発のロケットランチャ、燃料気化グレネード弾に加え、左肩には戦車の前面装甲以外のあらゆるものを貫く炸薬式パイルドライバが装備されています。
全身を強固な複合装甲板で覆い、内部に張り巡らされた人工筋肉によって、生身の握力が100キロの者でも10キロの者でも、等しく最大370キロもの化け物じみた握力を手に入れる事ができます。
生身の人間を、装甲車と対等以上の戦力にまで押し上げる、人類の切り札的な装備、それが機動ジャケットなのです。
しかし、人類と相対するその敵は、機動ジャケット兵ですら死を覚悟しなければ相対できません。
「ギタイ」と呼ばれるその敵は、地球上の生物とは根本的に異なる構造を持ち、腕の一振りで人の体など紙くずのように切り裂きます。噴出孔から射出するスピア弾は、機動ジャケットの複合装甲板ですら易々と貫いてしまいます。
それでいてジャケット兵を凌駕するスピードを持ち、20ミリ機銃など問題にならないほど堅牢な装甲を持っています。
人類にとってギタイとは、10人の機動ジャケット兵で扇状に取り囲み、全弾撃ち尽くしてようやく1匹仕留められるかどうかという、絶望的にどうしようもない存在なのです。
新米の機動ジャケット兵である主人公は、そんなギタイとの初戦闘において命を落とします。本来ならそこで終わる筈だった彼の人生は、しかし如何なる理屈によるものなのか、そこで「リセット」がかかる事になります。
前日の朝まで巻き戻ってしまった彼の意識は、理由も目的もわからないままに、終わる事なく延々と続くループの渦中にとらわれる事になってしまうのです。
率直に申しまして、名作です。かなり面白いです。
ミリタリーにSFと、燃えを表現するのに適した題材を扱っていますが、その2つを最大限に活用する事で、至上と言えるほど燃えるストーリーを形作る事に成功しています。
設定も細かな箇所に至るまでが秀逸で、構成力も卓越しており、ひとつひとつの描写も緻密です。全体を通して見ましても、穴らしい穴が見付かりません。
1点だけ気になる箇所があるとしますれば、それは終盤の展開にあります。
端的に申しますと、タキオン通信を遮断する物質、または方法が、本当に存在しなかったのかという事です。
本著が名作足り得るには、あの結末に至る他ないと思いますので、存在しなかったというのなら、それはそれでいいのです。ただ、その旨を一言明記しておく事で、展開の説得力が格段に上昇したとも思うのです。
100点満点で評しますと、94点といったところです。燃えを中心に扱った著作としては、円環少女以来の、一ヶ月ぶりの大当たりでした。
戦場の牝犬ことリタ・ヴラタスキさんの萌え度が、私の予想を遥かに超えて高かった事も、評価を上向かせた要因の1つです。
減点の理由は、上記の終盤の展開についてと、登場人物の言葉遣いが若干汚い事です。言葉遣いに関しては好みの範疇ですので、人によってはまったく問題にならないと思います。
ミリタリーが好きな方なら、とりあえず読んでおいて損はないと思います。
燃えるライトノベルを探しているという方にもお勧めいたします。
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